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福岡地方裁判所久留米支部 昭和62年(ヨ)13号 決定 1987年5月29日

債権者

国鉄労働組合

右代表者執行委員長

六本木敏

右代理人弁護士

石井将

市川俊司

服部弘昭

谷川宮太郎

債務者

旧日本国有鉄道承継法人日本国有鉄道清算事業団

右代表者理事長

杉浦喬也

右代理人弁護士

中野昌治

右代理人

荒上征彦

利光寛

滝口富夫

主文

一  債権者の申請をいずれも却下する。

二  申請費用は債権者の負担とする。

理由

第一当事者の求めた裁判

一  申請の趣旨

債務者は、別紙(略)物件目録一乃至二記載の各建物(部分)につき、債権者及びその構成員、訪問者らがそれぞれ正当な組合活動に必要な限度でなす右各建物(部分)の占有・使用を妨害してはならない。

二  申請の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  申請の理由

別紙物件目録(一)の建物は、債権者の所有であって、被保全権利は同建物の所有権に基く物上請求権である旨を付加訂正するほか別紙仮処分申請書記載のとおり。

二  申請の理由に対する認否

別紙答弁書記載のとおり。

第三当裁判所の判断

一  当事者間に争いのない事実及び疎明資料によれば、次の事実を一応認めることができる。

1  別紙物件目録一記載の建物の敷地及び同目録二記載の建物は、もと旧日本国有鉄道(以下単に「国鉄」という)の所有であったが、いわゆる分割民営化により昭和六二年四月一日以降申請外九州旅客鉄道株式会社に承継された。

2  債権者は、別紙物件目録一記載の建物を所有し、久留米分会の組合事務所として使用し、その敷地を占有使用している。

また、債権者は、同目録二記載の建物を南福岡電車区分会の組合事務所として占有使用している。なお、債務者が設置管理している施設を労働組合に組合事務所として貸与する場合その所属長の使用承認が必要であるところ、右各物件についてはこれがなされていないが、その使用については従前より黙認されていた。

3  旧国鉄は、いわゆる国鉄改革関連法の成立とともにその用地・施設等の資産について種々の負担を整理し、新会社等にこれを引き継がせる必要を生じ、同九州総局でも債権者門司地方本部に対し昭和六一年一二月九日口頭で、管内すべての債権者組合事務所について明渡しを求めた。そして、別紙物件目録一記載の建物の敷地については、久留米駅長より債権者久留米分会に対し、昭和六一年一二月一八日付文書で同月三一日までに、次いで昭和六二年一月一九日付文書で同月三一日までにそれぞれ明渡をするよう申入がなされた。また、同目録二記載の建物については、南福岡電車区長より債権者南福岡電車区分会に対し、昭和六一年一二月一九日付文書で同月三一日までに、次いで昭和六二年一月二七日付文書で同月三一日までにそれぞれ明渡をするよう申入がなされた。しかし、本件のいずれの物件についても旧国鉄や債務者らが組合事務所を閉鎖したり備品、書類を持ち出したりして実力で債権者の占有使用を妨害し、債権者がこれを実力で阻止するというような事態は発生していない。

二  以上の事実によれば、旧国鉄が債権者の他の組合事務所に対して備品を持ち出すなどしてその占有を妨害したことがあったとしても、なお、本件各組合事務所について債務者が債権者の占有を実力で妨害する行為を行なうことについての現実的、具体的な危険は認めがたく、又債務者自ら、準備書面において「昭和六二年四月一日以降、本件で問題となっている建物等の所有権はすべて申請外九州旅客鉄道株式会社に帰属するところとなったため今後は同会社において明渡しを求めることとなる」旨述べているのであって、したがって、本件仮処分申請は被保全権利及び保全の必要性についての疎明があるとはいえず、また、性質上疎明にかえて保証を立てさせたうえ本件仮処分申請を認容することも相当ではないから、結局本件仮処分申請は却下を免れない。

三  よって、申請費用につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 岡野重信 裁判官 有満俊昭 裁判官 奥田哲也)

仮処分申請書

申請の趣旨

債務者は、別紙物件目録(略)一乃至二記載の各建物(部分)につき、債権者及びその構成員、訪問者らがそれぞれ正当な組合活動に必要な限度でなす右各建物(部分)の占有・使用とを妨害してはならない。

との裁判をもとめる。

申請の理由

一 当事者関係

1 債務者は日本国有鉄道法によって設立された公法人であり、北九州市門司区西海岸一丁目六番二号に、九州総局を設置し、沖縄県を除く九州各県において、鉄道業務を営んでいるものである。

2 債権者は、日本国有鉄道に勤務する国鉄職員等で組織された労働組合である。債権者は、債務者の地方組織等に対応して各地方毎に地方本部を組織し、九州には、国労門司地方本部、国労熊本地方本部、国労鹿児島地方本部、国労大分地方本部の四地方本部がある。国労門司地方本部は、福岡県、佐賀県、長崎県、大分県に勤務する国鉄職員等の国労組合員によって組織されている。

国労門司地方本部は、北九州支部、博多支部、佐賀県支部、長崎県支部、新幹線支部、小倉工場支部、中央支部の支部組織を傘下に有し、各支部は国鉄の職能ごとに対応するなどして分会を組織している。

二 組合事務所の使用契約の存在

債権者の下部組織である国労門司地方本部の別紙各契約目録記載の各分会は(単に「分会」という)は、別紙各契約目録記載の期日頃、別紙各契約目録記載の債務者の委任を受けた現場長との間で、別紙物件目録記載の各建物(部分)を各分会の組合事務所として、無償で借り受ける旨の使用契約を締結し、現在までこれを占有・使用している。

三 債務者による右占有・使用の妨害

1 右のように、各組合事務所について、当該各支部・分会と現場当局との間で使用契約が締結され、且つ長年にもわたって、債権者及びその構成員が行なう組合活動のと(ママ)しての利用が認められてきたものである。この間、債務者は無論のこと各現場当局の管理者も組合事務所の占有・使用に対して異議を唱えたり明渡を求めたりしたことは一度もなかった。

2 ところが、債務者は、昭和六一年一二月中旬頃以降、各分会に対し、理由を告げることなく組合事務所の明渡及び組合所有物品の構外への撤去を要求してきた。

3 債務者は、既に各地の分会事務所等の明渡を債務者に迫っており、現に現場当局の手によって組合の物品が強制撤去された事案も発生している。

さらに、債務者は、昭和六二年四月一日新会社ないし清算事業団への資産承継を前に、組合事務所を「不当な負担」と考え、昭和六二年三月三一日迄に各組合事務所の明渡を至上命令とかんがえている。このことからも、近々、債務者現場当局の手で一方的に組合事務所の閉鎖、あるいは備品や組合の書類、及び電線、水道管などの実力撤去が強行される状態にある。

四 組合活動のための必要性と団結権侵害

1 企業内組合の組合活動は、必然的に企業内において展開されるから、企業施設内に設けられた組合事務所は、組合活動の本拠として重要な役割を担うものであり、団結活動の物的基礎をなすものである。この企業施設内の組合事務所を明け渡すことは、組合活動の拠点の喪失を意味し、団結に対する重大な脅迫となる。従って、組合事務所の貸与は、それが無償であっても、単に恩恵的な便宜の供与ではなく、債務者現場当局が、一旦、企業内施設を組合事務所として貸与した以上は、債務者において、合理的な理由もないのに、その返還を求めることはできないものである。

2 ところで政府自民党は既に昭和六二年四月一日をもって国鉄を全国六旅客鉄道会社、一貨物鉄道会社、新幹線保有機構などに分割、民営化し、余剰人員とされた旧国鉄職員四万一、〇〇〇名は三年間に限り臨時雇用し(その後企業外に放逐する)清算事業団に収容するとの国鉄改革関連法を国会で成立させた。

そして、国鉄労働組合は、この国鉄の分割、民営化は新幹線建設などの過剰投資、放漫財政継続の政治責任を棚上げにした政府財界による国鉄の解体収奪であり、国鉄労働者の九万三、〇〇〇人(その全てが国鉄労働組合員から選別される)を解雇する大人員整理であり、国鉄労働組合を解体に追い込むことを目標にした違憲の攻撃であるとして一貫して反対の運動をつづけてきた。

このため債務者は、国鉄労働組合にたいする抑圧、介入、分裂の攻撃を集中的に加えてきており、職場では組合否認、差別の不当労働行為、組合員いじめの人権侵害が全国的に多発するというまさに異常な状況の下にある。

国鉄労働組合との間だけの雇用安定協定の破棄(六〇年一一月)、労使共同宣言調印の強要(六一年一月)、新会社要員選別のための職員管理調書の作成(同年四月)、広域異動の発令(同年五月)、企業人教育(同)、などの一方的実施がされている。

また、職場では些細なワッペン着用に対する五万人の処分とか昇給、昇職の差別、草むしりなどの業務命令の濫発、組合掲示板の実力撤去など管理者による職場規律確立の名目のもとでの不当な権利侵害が継続している。

本件の債務者による組合活動の干渉介入もこのような情勢を背景として発生しており、本件明渡要求は、明らかに不当労働行為であって、無効といわざるをえない。

3 また、債務者は、昭和六二年三月三一日限りで消滅し、翌四月一日からは分割民営化された各種新会社ないし清算事業団が、組合事務所として貸与された各建物を含む企業施設を法律上当然承継して業務を遂行することになる。とするならば、現時点で債務者が各組合事務所を使用するなどの業務上の必要性はどこにもないのである。仮に、法律上当然承継される企業施設を新会社に引き継ぐ準備を以て業務上の必要性と強弁するならば、貸主としての使用者の立場は新会社に当然承継されるのであるから、新会社成立後に新会社の意思に基づいてその業務上の必要性を検討すればよく、債務者がこれを主張する必要は何ら存在しないものである。

また、各明渡の要求に際して、債務者は、業務上の必要性の説明を一度たりともした事実はなく、代替事務所の提供を申し出たことはなく、団交を重ねるなどの説得の努力をしたこともなく、ただ木で鼻を括る如く一片の通知書で明渡を求めただけである。

よって、債務者の本件各組合事務室の明渡請求は権利の濫用であり、極めて違法不当なものである。本件においては、債務者が、分割民営化を直前にしてかくの如き明渡を何故求めてきたのか、その意図が何処にあるのかが究明されるべきである。

五 保全の必要性

前述のとおり債務者現場当局は、組合事務所の明渡、物品を撤去するように通告しており、現在の労使関係及び債務者の置かれている状態と全国での情勢に鑑みて、債務者が各組合事務所に立ち入り実力行使をすることは必定である。

債権者は、現在使用契約及び占有権に基づき妨害予防・同排除の本案訴訟を準備中であるが、もし、債務者が実力行使の挙にでるや債権者にとってはその団結に回復し難い損害を蒙ることは明らかであるので、早急に申請のとおりの決定をされたい。

答弁書

申請の趣旨に対する答弁

債権者の申請を却下する。

申請費用は債権者の負担とする。

との裁判を求める。

申請の理由に対する答弁

申請の理由第一項について

1 同項の1について

認める。

2 同項の2について

認める。但し、最後の部分に「各支部は国鉄の職能ごとに対応するなどして分会を組織している。」とある点は不知。

二 申請の理由第二項について

申請書別紙物件目録一及び二記載の各建物を、債権者主張の各分会が占有していることは認めるが、その余は争う。

三 申請の理由第三項について

1 同項の1について

今回の明渡し要求までは、特に異議や明渡しを求めたことが無かったことは認めるが、その余は争う。

2 同項の2について

債務者が、久留米駅分会に対しては、昭和六一年一二月一八日、南福岡電車区分会に対しては、同月一九日、国鉄改革の円滑な遂行のため「業務上早急に整理する必要が生じた。」ことを理由として、各組合事務所の組合所有物品の撤去及びその明渡しを要求したことは認めるが、その余は争う。

3 同項の3について

債務者が、各地の分会事務所の明渡しを要求していること、及び、昭和六二年四月一日の新会社への資産承継までに各組合事務所を一旦整理して負担のない状態で承継する必要があると考えていることは、認めるが、その余は争う。

四 申請の理由第四項について

1 同項の1について

争う。

2 同項の2について

政府が昭和六二年四月一日をもって国鉄を全国六旅客鉄道会社、一貨物鉄道会社、新幹線保有機構などに分割、民営化し、余剰人員とされた旧国鉄職員を三年間は雇用することを内容とする国鉄改革関連法を成立させたこと、国鉄労働組合が、この分割、民営化に一貫して反対してきたこと、国鉄労働組合との間に雇用安定協定が締結されていないこと、職員管理の適正化のための職員管理調書が作成されたこと、希望者に対する広域異動の発令、及び、企業人教育が実施されたこと、ワッペン着用に対する処分があったこと、並びに、必要のない組合掲示板の撤去がなされつつあることは、認めるが、その余は争う。

3 同項の3について

争う。

債務者は、昭和六二年四月一日より、債務者の権利義務のうち新会社等の承継法人に対して、「承継計画において定められたものを、承継計画において定められたところに従い承継」させ(日本国有鉄道改革法二二条)、「承継法人に承継されない資産、債務等」を「日本国有鉄道清算事業団に移行させ」るのである(同法一五条)。

五 申請の理由第五項について

争う。

債務者の主張

一 組合事務所の使用関係について

債務者が設置管理している施設を労働組合に組合事務所として貸付る場合、労働関係事務取扱基準規程、土地建物等貸付規則及び同基準規程の定めにより、組合より所属長(本件においては九州総局長)に対して、「鉄道土地(又は建物)使用承認願」を提出し、その所属長の許可を要するところとなっているところである。

そのため、従来から、組合事務所については、組合からの申請に基づき、その都度業務上の支障の有無並びに組合活動の本拠としての機能等を判断して、支部以上の組合機関に使用承認してきたが(右使用承認書の一九条には「国鉄において必要があると認めるときは」「いつでもこの使用承認を取消すことがある。」旨を定めている。)、本件においては右申出もなく、したがって右許可もないのである。

仮に、債権者主張の頃から、組合事務所として使用を黙認してきたとしても、それはあくまで事実上のものであって、何等の法的な拘束力を伴うものではなかったはずのものである。

二 本件各組合事務所明渡しを求める事由について

1 「日本国有鉄道による鉄道事業その他の事業の経営が破綻し、現行の公共企業体による全国一元的経営体制の下においてはその事業の適切かつ健全な運営を確保することが困難となっている」(日本国有鉄道改革法一条)ことは、公知の事実である。

そのため、政府は、日本国有鉄道につき「その役割をになうにふさわしい適正な経営規模の下において旅客輸送需要の動向に的確に対応した効率的な輸送事業が提供されるようにその事業規模を分割するとともに、その事業が明確な経営責任の下において自主的に運営されるようその経営組織」(同法六条)を改革することを内容としたいわゆる国鉄改革関連法案を成立させたところである。

そのため、「日本国有鉄道は、日本国有鉄道の改革が国民生活及び国民経済にとって緊急の課題であることを深く認識し、その組織の全力を挙げて、この法律に定める方針に基づく施策が確実かつ円滑に実施されるよう最大限の努力を尽くさなければらない」(同法二条二項)ことを義務付けられ、来る四月一日の改革実施日に向けて、この改革が「確実かつ円滑に実施されるよう最大限の努力」をしているのである。

とりわけ、国鉄が所有する広大な用地・施設関係は、新会社の事業の遂行上必要最小限の資産を新会社に引継ぎその効率的経営を確保するとともに、残余については莫大な長期債務等の処理財源に充てる等、可能な限り最大限の手段を尽くす必要がある。

このため、国鉄では用地・施設等の資産につき、様々な負担をできるかぎり早急に整理し、新会社等に適正かつ良好な状態で引継ぐこととしている。

2 このような状況下、九州総局では、国鉄改革関連法案成立とともに、右のような資産整理に着手した。

特に、本件のような組合事務所関係については、正式の明渡し通告前に、あらかじめ各労働組合の代表者に明渡しの必要性について説明し、念のため一応の了解をとることとしたのである。

債権者組合の門司地方本部に関しては、昭和六一年一二月九日、同本部の総務関係の責任者である北原美幸執行副委員長を九州総局総務部長室に呼び、植田総務部長より、国鉄改革実施のため、組合事務所として使用している建物等については、業務上早急に整理する必要が生じたので、組合の所有物を撤去し明渡してもらいたい旨を申入れたところ、右北原執行副委員長は、「そのことはよく分かりました。ただ分会事務所については、整理の都合で一月以降になる所も出てくる。」旨を述べたため、植田総務部長も「原則として一二月中に明渡していただきたいが、物品の整理などで無理な箇所は、来年一月中で差し支えない。」旨を回答した。この回答に対して、北原執行副委員長は、分かりました。と答えて総務部長室を退去したのである。

そこで、同月一六日より一九日にかけて、九州総局内の各現場長より、正規の使用承認を行っていない建物等六八箇所については同月三一日までに退去明渡しを終えるような申し入れ書を発し、正規の使用承認をしている建物、一七箇所及び土地一一箇所中、使用承認期間が昭和六二年三月三一日までに到来するものについてはその終了日までに、その使用承認期間が同年三月三一日までに到来しないものについてはその使用承認を解除のうえ同年三月三一日までに、それぞれ明渡すことを内容とした通知を発した。

しかるところ、債権者組合を除く各組合は、既に大半の組合事務所につき明渡しを終えるか又は明渡しの準備を行っているのである。

3 一で述べたように本件のような正規の使用承認のない組合事務所については、仮に黙認があったとしてもそれが事実上のものでしかないとすれば、明渡しについての法的な拘束は、原則的には(権利濫用等の問題はあろうが。)存しないはずである。

百歩譲って、黙示の使用承認があったと評価されるような事実が存したとしても、その場合といえども正規の使用承認の場合と同程度の効力でしか有りえないはずである。(黙示の承認が、正規の承認より強い効力を有するとは通常は考えられないはず。)

とすれば、右無償貸与の際の条件として、「国鉄において必要があると認めるとき」は、「いつでもこの使用承認を取消す」ことができるのであるから、国鉄の側に必要性が生じれば無条件で明け渡さねばならないのである。

しかるところ、先に述べたような分割民営化により収支採算の取れるような経営体に移行していくことが確定した現在においては、まず新会社において資産を独自に有効かつ効率的な運用(すぐに商業ベースでの貸付等の運用ができるとか、あるいは、固定資産税等の負担軽減のための不要財産の整理等)ができるようにしたうえで新会社に引き継がねばならなくなったのである。

したがって、分割民営化が確定した現在においては、資産の効率的運用の確保という必要性が生じたのであるから、債権者らに占有権限がなくなったことは明らかである。

加えて、来る四月一日からの分割民営化が確定した現在において、本件建物のように正規の使用承認のない物件を新会社に引継ぐならば、新会社において、明渡し裁判等の手続きをとらなければならなくなり、ただでさえ経営基盤の弱さを指摘されている九州の新会社にこのような負担を背負わせることは、国鉄改革法のめざす「当面の収支の均衡」さえも危うくすることは明白である。

また、清算事業団に移行する残置資産は、厖大な債務償還のため、貸借人等のない負担のない状態にしてなるべく高額で売却しなければならないのである。

とすれば、この点からも、現在の国鉄においては、早急に明渡しを求める等の厳正管理行為を実施したうえで、新会社等に適正な形で引き継ぐ等の必要にせまられているのである。

よって、債務者は緊急に明け渡しを求めなければならないのであって、債権者らの主張が理由のないものであることは明らかである。

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